豪州先住民の村で60年続く「サンタテレサ・ブッシュレース」――家族が集う伝統の草競馬

豪州先住民の村で60年続く「サンタテレサ・ブッシュレース」――家族が集う伝統の草競馬

オーストラリア・ノーザンテリトリーの先住民コミュニティ、サンタテレサ(Ltyentye Apurte/チェンチェ・アプテ)では、毎年10月になると少し変わった競馬が行われる。

「Santa Teresa Bush Races(サンタテレサ・ブッシュレース)」、現地名から「Ltyentye Apurte Horse Races」とも呼ばれる草競馬だ。

アリススプリングスから南東へ約70キロ。大きなスタンドはなく、赤土のコース脇には車が並ぶ。観客はその周囲からレースを眺め、子供たちは柵の近くで馬を待つ。

豪ABCが10月5日に伝えた今年の開催も、そんなサンタテレサらしい光景に包まれていた。

■ 先住民ストックマンから始まった競馬

サンタテレサは、Eastern Arrernte(東部アレンテ)の人々が暮らすコミュニティで、現地ではLtyentye Apurteと呼ばれている。

ここで競馬が始まったのは1960年代。当時、この地域の多くの先住民男性がキャトルステーション(大規模牧場)でストックマンとして働き、牛や馬を扱っていた。

牧場で磨いた乗馬技術を競い合うことから始まったブッシュレースは、その後も地域の恒例行事として続いた。

主催団体Atyenhenge Atherre Aboriginal Corporation(AAAC)の会長で、レース実況も務めるRaymond Palmer氏はABCに、先祖の時代から続いてきた大切な行事であり、これからも続けていきたいと話している。

■ ストックサドルで赤土のコースへ

サンタテレサのレース風景は、都市部の競馬場とはずいぶん違う。

騎手の服装はプロ競馬のような勝負服ではなく、牧畜作業などで使われる頑丈なストックサドルで走る馬もいる。ABCによれば、ヘルメットの着用も一律ではない。

観客席もない。

コース脇まで車を寄せ、荷台や車の周囲からレースを見る。帽子にTシャツ、短パンという普段着の観客も多く、柵のそばには子供たちの姿がある。

レースの合間には、子供たちが赤土のコースへ出て遊ぶ。

競馬場というより、村の運動会に馬のレースが加わったような距離感だ。

■ 1300豪ドル(約14万円)のサラブレッドカップ

今年の開催ではストックホースとサラブレッドによるレースが行われ、メインレースである2000メートルの「Thoroughbred Cup(サラブレッドカップ)」では、Shane Mulladad騎手がDivaに騎乗して優勝した。

Divaは序盤を後方で進み、最後の直線でほかの5頭を差し切った。これが週末2勝目だった。

賞金は1300豪ドル、日本円で約14万円。

ABCは、この開催の賞金について「町で食料品を少し余分に買える程度」と紹介している。

だが、参加者が楽しみにしているのは賞金だけではない。

1990年代初頭からサンタテレサのレースに参加しているPeter Kenny氏は、今年も所有馬Trinityを連れてきた。Trinityは週末最初のレースを勝っている。

Kenny氏は馬に乗ることも、馬が走る姿を見ることも好きだという。

そして、この開催についてABCに語ったのは、家族のことだった。

子供たちや家族がみんな一緒に集まれる。それがいい――。

Kenny氏自身、父親から馬の扱い方を教わった。子供の頃から馬に乗り、馬を馴らし、現在はWalkabout Boreで馬を繁殖・調教してサンタテレサへ連れてきている。

■ 昔は「ほとんど馴致しただけ」の馬も

このブッシュレースには、今以上に荒っぽい時代もあった。

ABCが2013年に取材した際には、十分な競走調教を受けていない馬が出走することもあった。

野外から馬を集め、人や車に慣れさせてレースへ出す。落馬も珍しくなかったという。

一方、参加者の飲酒については厳しく管理され、レース前にはアルコール検査が行われてきた。

今年も遠方から馬を連れて参加する人がいる。荒れた道路を何時間も走ってサンタテレサへ向かう参加者もいるという。

■ レースの後はカウボーイとカウガールの祭り

馬のレースが終わってもイベントは続く。

人々はコミュニティのスポーツホールなどに集まり、屋外ではバーベキューが振る舞われる。

恒例となっているのが、カウボーイ、カウガールのベストドレッサーコンテストだ。

子供から大人まで、カウボーイハットやブーツ、ジーンズ、ベルト、チャップスを身につけて参加する。鞭さばきを披露する参加者もいる。

今年はランニングや自転車競走、子供たちによる「トカゲレース」なども行われた。

競馬を見るだけではなく、一日を通して家族で楽しむ地域の祭りになっている。

■ 馬とともに次の世代へ

サンタテレサでは、馬との関わりを若い世代へ伝える取り組みも行われている。

AAACは学校と連携した乗馬プログラムなどを実施し、地元のストックマンが若者に馬の世話や安全な乗り方を教えてきた。

今年サラブレッドカップを勝ったDivaのオーナー、Damien Kunoth氏も、こうした馬との関わりが若者を牧畜産業の仕事へつなげる可能性についてABCに語っている。

1960年代、キャトルステーションで働く先住民ストックマンたちから始まったサンタテレサ・ブッシュレース。

約60年後の現在も、赤土のコースには馬が集まり、その周りには家族が集まる。

父親から馬の扱い方を教わった世代が馬を連れて戻り、その姿を今度は子供たちが見ている。

大都市の競馬場とはまるで違うが、サンタテレサでは今年も、いつもの競馬の週末が過ぎていった。

主な参照報道・資料:
豪ABC(ABC Alice Springs)
ABC Rural
Atyenhenge Atherre Aboriginal Corporation
豪州現地報道

26.10.6 うまラボコラム班

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