ウルグアイには「90キロ走る競馬」があった 80年以上続く国民的な馬の祭典「レイド」とは?

ウルグアイには「90キロ走る競馬」があった 80年以上続く国民的な馬の祭典「レイド」とは?

日本の競馬で長距離戦といえば、菊花賞や天皇賞・春の3000~3200メートル。

世界を見ても、通常の競馬で4000メートルを超えればかなりの長距離戦になる。

ところが南米ウルグアイには、まったく違う「競馬」がある。

距離は90キロ。

9000メートルではない。

90000メートルである。

実に菊花賞の30倍の距離である。

9月13日、ウルグアイ東部のセロラルゴ県で、第33回「ラパス・ガルシア」フェデレーテッド・レイドが開催される。

スタートは午前6時15分。メロからブラジル国境に近いアセグア方面へ向かうルートなどを使い、馬と人が90キロを走る。ウルグアイ馬術連盟の2026年公式カレンダーにも、正式なフェデレーテッド・レイドとして掲載されている。

しかし、これは単なる「ものすごく長い競馬」ではない。

調べていくと、そこには日本の競馬とはまったく違う、ウルグアイ独自の馬文化があった。

■ 90キロを一気に走るわけではない

90キロと聞けば、

「馬を90キロも走らせて大丈夫なのか?」

と思うかもしれない。

当然ながら、スタートからゴールまで休まず走り続ける競走ではない。

ウルグアイのレイドには「neutralización(ニュートラリサシオン)」と呼ばれる重要な時間が存在する。

競走は大きく2つの区間に分けられ、第1区間を走り終えると馬は休養場所へ入る。

ここで1時間の休憩。

水分を与え、餌を与え、体を冷やす。

しかし、単に休めば再スタートできるわけではない。

到着から20分後、獣医師が馬を診察する。

馬の状態が正常と判断されれば第2区間への出走を許可されるが、問題が確認されれば再検査。それでも状態が適切でなければ、その時点で競走から除外される。

つまり、

「速く走れば勝ち」

だけではない。

90キロを走り切れる馬を作り、レース中の体調を管理し、獣医師のチェックを通過させながらゴールへ向かう。

馬の耐久力と騎手の判断、そしてチームによる管理能力まで問われる競技なのである。

■ レース中、馬には「チーム」が付いている

さらに面白いのが、騎手と馬だけで戦っているわけではないことだ。

ウルグアイのレイドには「aparcería(アパルセリア)」と呼ばれる支援チームが存在する。

長いコースを走る馬に付き添い、競走中のサポートを行う。

特に重要なのが馬の体温管理。

長時間走れば当然、馬の体温は上昇する。そのため走行中には馬へ水をかけ、体温を下げながら競走を続ける。

日本の競馬でいえば、調教師、厩務員、獣医師、給水スタッフなどが一つのチームとなり、レースそのものに参加しているような世界だ。

■ レース前日から馬の「健康診断」が始まる

競走は日曜日だが、レイドはその朝から始まるわけではない。

前日には「Marcación(マルカシオン)」と呼ばれる手続きが行われる。

まず馬の個体識別用チップを確認。

続いて獣医師が、

口腔粘膜
腸の状態
心拍数
水分状態
歩様・速歩

などをチェックする。

健康状態に問題がなければ正式に競走馬として登録され、ワクチンなどの書類も確認される。

さらに騎手は鞍を含めて計量される。

そして馬には競走馬であることを示すマーキングが行われる。

レース後にも騎手と鞍の重量を再計測。

馬は「病院」と呼ばれる管理区域へ入り、獣医師の監視下で回復処置を受ける。

上位馬にはドーピング検査も行われる。

90キロを走ってゴールすれば、それで終わりではないのである。

■ しかも翌日にも馬を検査する

さらに驚くのは翌日だ。

競走翌日には「プレゼンタシオン・オリンピカ」と呼ばれる馬体検査が行われる。

ここでも馬の状態が確認され、負傷や健康上の問題が認められれば失格となる場合がある。

つまり、ゴール板を最初に通過しただけでは完全に終わったとはいえない。

90キロを走った翌日まで馬の状態を確認するところまでが、ウルグアイのレイドなのである。

■ そもそも、なぜウルグアイでこんな競馬が生まれたのか

この競技の背景には、ウルグアイと馬との深い関係がある。

レイド・イピコがスポーツとして形成されたのは20世紀前半。

中心となった場所が、ウルグアイ中部フロリダ県のサランディ・グランデだった。

農村部では馬が生活に欠かせない存在で、各地では短距離の草競馬も盛んだった。

そんな中で、

「どの馬が本当に優れているのか、長距離で決めよう」

という発想から長距離競走が行われるようになった。

1930年代にはサランディ・グランデで100キロの競走が実施され、14頭が出走。サランディからドゥラスノへ向かって戻る100キロのコースを、途中20分の強制休憩を挟んで走ったという記録が残されている。

■ 1944年、ついに全国組織が誕生

レイド人気は各地へ広がっていった。

そして1944年、競技を統括するウルグアイ馬術連盟(Federación Ecuestre Uruguaya=FEU)が設立された。

現在のFEU自身も、レイドについて「82年以上の歴史」「1944年創設」、そして「真正にウルグアイのスポーツ」と紹介している。

現在も年間を通じて各地でレイドが開催されている。

2026年の公式結果を見るだけでも、5月末までに20を超える大会が開催され、その後もほぼ毎週のように大会が続いている。

今回の「ラパス・ガルシア」もその一つ。

そして33回目という数字は、ウルグアイでは決して特別に古い大会ではない。

50回、60回を超える大会が各地に存在し、2026年8月には「インデペンデンシア・ナシオナル」が73回目を迎えている。

■ 国から「ウルグアイ独自のスポーツ」と認められた

レイドは単なる地方競馬でもない。

2014年、ウルグアイ政府は発祥地サランディ・グランデを「レイド・イピコの国家首都」と位置づけ、レイドそのものを「真正にウルグアイのスポーツ」と認めた。

さらに文化的な側面についても調査が進められている。

ウルグアイ政府の文化資料では、レイドを単なるスポーツとしてではなく、地方社会のアイデンティティ、家族、馬、地域社会が結びついた文化として紹介している。

■ レースの日は「町のお祭り」になる

だからこそ、レイド開催日は競馬だけでは終わらない。

今回の第33回ラパス・ガルシアも9月11日から13日までの3日間開催。

金曜日には音楽ライブとダンス。

土曜日にもライブイベントが行われ、土曜と日曜には専用コース「エル・レトルノ」で5つの短距離競走が開催される。

そして日曜日の朝、メインイベントとなる90キロのレイドがスタートする。

夜には再び音楽イベントが行われる。

競馬を見に行くというより、

「町全体で馬の祭りを3日間楽しむ」

という方が近い。

■ 優勝賞金は19万ウルグアイ・ペソ

今年のラパス・ガルシアの優勝賞金は19万ウルグアイ・ペソ(約73万円)。

2着にはその35%が支払われる。

ウルグアイ馬術連盟の公式2026年カレンダーにも、90キロ戦、優勝賞金19万ペソとして掲載されている。

日本の中央競馬の賞金と比べれば決して巨額ではない。

しかし、この競技の価値は賞金だけでは測れない。

馬を育て、騎手が乗り、家族や仲間が「アパルセリア」として支え、町の人々が沿道で迎える。

それを各地のクラブが何十年にもわたって受け継いできた。

■ 日本の「競馬」とはまったく違う馬の世界

日本で「競馬」と聞けば、競馬場、サラブレッド、馬券、ゴール前の叩き合いを思い浮かべる。

しかし地球の反対側では、早朝から馬に乗り、90キロ先のゴールを目指す競馬が毎年何十回も行われている。

途中で馬を休ませる。

水をかける。

獣医師が診察する。

問題があれば、たとえ勝負の途中でもそこで終わる。

そして騎手と馬だけではなく、家族や仲間たちがチームとなって90キロを戦う。

夜になれば町では音楽が鳴り、人々が踊る。

翌日には、90キロを走り終えた馬をもう一度獣医師が診察する。

それが80年以上受け継がれてきた、ウルグアイの「レイド・イピコ」。

日本ではほとんど知られていないが、世界には競馬場の外にも、これほど巨大な馬の文化が残っている。

#意外と知らない世界の競馬

26.9.13 うまラボ編集部

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