2024年の安田記念で日本の一線級を破ったロマンチックウォリアーが、現役を引退した。
香港ジョッキークラブは9月2日、前肢の詳細な画像検査と評価を行った結果、馬主・調教師・獣医師が協議して引退を決めたと発表した。
最終成績は31戦24勝。4カ国でG1を15勝し、獲得賞金は世界歴代最高の2億8874万5697香港ドルに達した。
しかし、この馬の競走人生を最も分かりやすく表す数字は、G1勝利数だけではない。
ロマンチックウォリアーが現在の馬主に購入された価格は、480万香港ドル(当時のレートで約6850万円)だった。競走だけで、その約60倍を稼いだのである。
■馬主が選んだのは「種牡馬になれない馬」
ロマンチックウォリアーは2018年にアイルランドで生まれた。父は英国の名短距離馬アクラメーションで、誕生時は牡馬だった。
香港へ渡る前に去勢され、競走生活を終えても種牡馬にはなれない騸馬となった。
日本競馬では、トップクラスの牡馬がG1を勝てば、引退後に種牡馬として大きな価値を持つ。競走賞金だけで購入費を回収できなくても、種付け料や産駒売却によって利益を生む可能性がある。
ところがロマンチックウォリアーには、その出口が最初からない。馬主が投じた資金を取り戻す方法は、競馬で走って賞金を獲得することだった。
それでも香港で騸馬が珍しくないのは、同地に大規模なサラブレッド生産産業がなく、競走馬の多くを海外から輸入しているからだ。将来の種牡馬価値より、長く安定して競走できることが重視される。
気性を安定させ、競走へ集中させる目的で去勢された馬が、一流馬として何年も賞金を稼ぐ。ロマンチックウォリアーは、その香港型モデルの究極の成功例になった。
■香港ジョッキークラブが先に買った馬だった
ロマンチックウォリアーが馬主ピーター・ラウの所有馬になるまでには、香港独特の仕組みがあった。
同馬を最初に見つけたのは、元アイルランド王者騎手のマイケル・キネーンだった。香港ジョッキークラブのために欧州で馬を選び、2019年のタタソールズ・オクトーバー・イヤリングセールで30万ギニー(当時のレートで約4370万円)で落札した。
その後、香港ジョッキークラブが育成や輸送を行い、2021年の香港インターナショナルセールへ上場。そこでラウが480万香港ドル(当時のレートで約6850万円)で購入し、「ロマンチックウォリアー」と名付けた。
一般的な競走馬セールでは、馬主や代理人が市場へ出向き、候補馬を直接選ぶ。
香港インターナショナルセールは少し違う。香港ジョッキークラブが世界各国のセールで若馬を先に買い、育成したうえで、香港の馬主へ再販売する。海外で馬を選ぶ経験が少ない馬主でも、一定の選別と準備を経た若馬を購入できる仕組みだ。
もちろん、高額馬が必ず走るわけではない。2026年の同セールでは最高額馬が920万香港ドルで落札されている。ロマンチックウォリアーの480万香港ドルは安価ではないが、歴史的名馬の購入額としては突出して高くもなかった。
その一頭が、同セール出身馬として初めて香港ダービーを勝ち、最終的に購入額の約60倍を賞金で持ち帰った。
■香港を出たことで「世界の馬」になった
ロマンチックウォリアーが特別だったのは、香港で勝ち続けただけではない。
2023年にはオーストラリアへ遠征し、同国を代表する中距離G1コックスプレートを制覇。2024年には東京競馬場の安田記念へ出走し、ナミュールやソウルラッシュを退けた。
2025年にはUAEのジェベルハッタも勝利。G1勝利を香港、オーストラリア、日本、UAEの4カ国で記録した。
地元の香港カップでは2022年から4連覇。1600メートルの安田記念から2400メートルの香港チャンピオンズ&チャターカップまで勝ち、芝の幅広い距離に対応した。
さらに2026年には、スチュワーズカップ、香港ゴールドカップ、香港チャンピオンズ&チャターカップを制し、香港三冠を完成させている。
高額賞金のレースを数多く走ったことも記録の一因だが、そこで勝ち続けなければ2億8874万香港ドルには届かない。
■最後まで「競走すること」が価値だった
ロマンチックウォリアーは、引退によって種牡馬になるわけではない。
今後3カ月は中国本土にある従化競馬場で香港ジョッキークラブの獣医師による経過観察を受け、その後、同クラブの競走馬アフターケア制度「RESTART」の支援を通じて余生を送る予定だ。今季中には沙田競馬場で送別式も行われる。
競走能力とは別に、血統を次世代へ残す価値が重視される日本の名牡馬とは、引退後の道が大きく異なる。
だからこそ、ロマンチックウォリアーの価値は現役時代の31戦に凝縮されている。
480万香港ドルで購入され、種牡馬価値を持たない騸馬として走り、24勝。日本を含む4カ国でG1を15勝し、購入額の約60倍となる世界最高賞金を獲得した。
ロマンチックウォリアーは、血を残さなくても競馬史へ名を残せることを、数字と走りの両方で証明した馬だった。
26.9.3 うまラボ編集部

